□ ノースペシメン
|
・―□ アニメ創作系
    |
    ・―□ 働く戦闘員


■戦闘員のボロアパートの自室(早朝)
  朝陽のさす窓。ホコリがキラキラと舞う。 (off) スズメの鳴き声。コーヒーの空缶に吸殻がつまっている。
  薄汚れた煎餅布団に全身黒タイツの男が寝ている。ジリリリと寝覚まし時計がけたたましく鳴る。
  男は目を覚まし、散らばったボムとエロゲーのRと麻雀牌の山の中から時計を発掘して音を止める。
戦闘員 「バブー(字幕 : もう朝か)…」

ナレーション 「コイツは世界征服機構の下っ端戦闘員、世を忍ぶ仮の名をオカザキヨースケという。
 まあ名前などどうでもいい。消耗品に名前は要らない。オイそこの黒いデブで上等だ」

  男は寝巻き用の全身黒タイツを脱ぎ、外出用の全身黒タイツに着替える。得意の決めポーズをとる男が
  姿見に映っている。
戦闘員「身だしなみオッケー。オシャレだぜナイスガイ。オレはベストガイになるぅ〜」
  …ふと我にかえり沈黙する戦闘員。そういえばもうすぐ千歳の航空祭である。
戦闘員「…じゃあそろそろ出かけるか」

■商店街(早朝)
  商店街の彼方からママチャリに乗った全身黒タイツの男が両足をひろげてノリノリで近づいてくる。
  なにごとか口走っている。
戦闘員「コーブラー〜ゴーゴゴー、イェー♪」
  カメラPANして商店街の彼方へ走り去っていく黒タイツ男のママチャリを見送る。

■阪急梅田駅改札口(朝のラッシュ時)
  改札機の列。どっと人が押し寄せてくる。その中に全身黒タイツの男がいる。[ ロング ]

■某コンピュータ専門学校正面(朝)
  登校する生徒たちに紛れて校舎内に入る全身黒タイツの男。[ ロング ]

■某コンピュータ専門学校1階玄関(朝)
  全身黒タイツの男、生徒たちに元気よく挨拶する。生徒たち、それなりに応じる。
戦闘員 「おはようございます!!」
生徒A 「うぃーっす」
生徒B 「おぁよーごあいあーす」
生徒C 「ざいまーす」

■某コンピュータ専門学校5階第11教室(朝)
  全身黒タイツの男、教室で熱心に授業を受けているのが廊下から窺える。

ナレーション 「世界征服の礎となるべき戦闘員にも学業がある。この野郎はゲームの仕事に就きたいらしい
 が、世界征服の暁には偉大なる大総統閣下を称えるプロモゲームでも作る気だろうか。そこはそれ適当に
 がんばれ、黒いデブ」

■そば屋(昼)
  全身黒タイツの男はかけそば2杯とおにぎり4コを注文し、40秒でたいらげる。
戦闘員 「ふー、食った食った」
  満足げに腹をぽんぽんと叩く全身黒タイツの男。

ナレーション 「戦闘員の身体は炭水化物でできている。醜くぶよぶよとこぼれた肉も、長時間に及ぶ戦闘に
 耐える為の備えなのである…たぶん」

■ローソン(昼)
  フロムAを読みふける全身黒タイツの男。
戦闘員 「うちの組織は薄給でコキ使うバブー。でもケガの治療はタダだし危険過給あるからもっとワリのいいバイトって無いもんだな。  緊急招集でフケてもクビにならないようなところとなると…厳しくなるぜ…」
ローソン店員 「あの、立ち読みはご遠慮ください」
戦闘員 「あッ、ああ、すみません、買います買います」

■スターバックス(午後)
戦闘員 「キャラメルなんとかいうやつ、ひとつください」
店員 「申し訳ございませんが全身黒タイツのお客様はおひきとり願います」
戦闘員 「……ま、そういう扱われ方は慣れてるけどね」

■理髪店(午後)
  全身黒タイツの男、鏡の前で椅子に座っている。頭も黒タイツで包まれている。
戦闘員 「いつものヤツ、カッコよく頼むぜ」
理髪店のオヤジ 「は?ああ、アレね」
  黒タイツの頭から突き出したりはみ出ている脂ぎった髪になんとなくハサミを入れる理髪店のオヤジ。
理髪店のオヤジ 「お客さん、きょうはデートかなんかかい?」
戦闘員 「ふ、まあね」

■カラオケボックス(夕刻)
  戦闘員+2人の男&3人の女。歓談中。
戦闘員 「いやー僕こういう場に慣れてなくて」
女A 「お仕事はなになさってるんですか?」
戦闘員 「えー…ホントは言っちゃいけないんだけど…とある組織に勤めているんですが」
女A 「えっ?お役所かなにかなんですか?」
戦闘員 「いえそんな立派なもんじゃなくて…」
男A 「まあ、大きな声じゃ言えないよなあ?アッハッハ!」
男B 「コイツ、みかけによらずワルなんだぜぇ」
戦闘員 「う、うん、現行法では超法規的活動といえばそうなんだけど…勝てば官軍てよくいうじゃない?
 いわゆる正義とか悪なんてものは相対的なものなんだよ」
女B 「もしかしてヤクザ?それとも過激派?」
戦闘員 「似てるけど違うなぁ。そんな派手に表に出てこないし、機構全体の規模なんて僕みたいな下っ端に
 は知らされてないもの」
女B 「ひょっとして…イスラム教のテロリストとか北朝鮮の工作員だったりして…」
戦闘員「んー、だから違いますってば。もうこれ以上詮索するのは勘弁してくださいよ」
女A 「なんだかミステリアスですよね、彼」
女B 「確かにハードボイルドではあるね」
  女C、『バーチャルスター発生学』を歌い終わる。皆を見回してキッと睨みつける。
女C 「ちょっと!あたしが熱唱してんのに無視すんなよなー」
  男A・男B、あわてて拍手喝采する。
男A 「あ、ああ、オレはちゃんと最初から聴いてたぜ」
男B 「オレもオレも。あんまり巧いからびっくりしたよ。本物みたいだったぜ」
女C 「あんた本物聴いたことあんのかよ!」
女B 「まあまあ、合コンなんだからべつにいいじゃない、みんなでおしゃべりしにきてるんだから」
女C 「ココはカラオケの場。ふん、まあいい。次、そこのモテモテ彼氏、なんか歌ってよ」
  全身黒タイツの男、あわてて曲目リストをめくるが歌えそうな曲がなくて弱る。
男B「あ、次オレだオレ」
  男B、『仮面ライダーブラックRX』を歌いはじめる。全身黒タイツの男、ガタガタと震えはじめる。
  あまりの恐怖に顔色が青くなる。

ナレーション 「戦闘員は正義のヒーローに弱い。昨日までの仲間が1度の出撃でバタバタ死んでいるのだ。
 だから戦闘時には薬物投与を受けて恐怖心を克服し、果敢にも桁違いに強いヒーローに立ち向かっていく
 のである」

女A 「あの、どこか具合悪いんですか?」
戦闘員 「いえ、ご心配なく。緊張してるだけです。ちょ、ちょっと顔洗ってきます」
  ヒーローソングから逃げるように部屋を出る全身黒タイツの男。さり気に男Aがあとを追って出ていく。
  ふらふらと歩いていく全身黒タイツの男の肩をつかみドンと壁に押し当て、片手で首を締め上げる。
男A 「ちょっとチヤホヤされたくらいでいい気になるんじゃねえ。てめえはたまたま人数あわせで呼んで
 やっただけなんだからな」

ナレーション 「下っ端といえど世界征服機構の戦闘員は強化改造と格闘訓練を受けている。並の人間相手
 ならば簡単にねじ伏せることもできるのだが、世界征服機構の発令した正式なソーティのパーミッションを
 受けなければその実力を発揮することはできないのだ」

戦闘員 「くッ、ぐふ…わかって…ます」
  歌い終わった男Bが出てくる。
男B 「お、さっそくシメてんのかよ」
男A 「ああ、もうコイツ帰らそうぜ」
男B 「そうだな。よし、いいか、体調が悪いとか仕事があるとか言い訳してお前は先に帰ってろ。
 余計なことは言うんじゃねえぞ」
  男Aの手から解放され、廊下にへたりこむ全身黒タイツの男。半泣きでつぶやく。
戦闘員 「どうせオレにはいつものことだよ…」

■ボロアパート共同の風呂場(夜)
  全身黒タイツの男、洗面器で浴槽の湯をザバーッと頭からかぶる。
戦闘員「ふぅ、きょうはもう招集はないか…生きているって素晴らしいなァ…やっぱり死にたくないなー」

■戦闘員のボロアパートの自室(夜)
  全身黒タイツの男はカップヌードルをすすっている。
戦闘員「きょうは合コンで好きなだけ飯が食える予定だったのにな…7千8百円もふんだくりやがって…
 くそう、悔しいなあ…おかげであしたから機構の給料日までずっとカップメンだ…」
  ズズっと汁を全部飲み干すと、煎餅布団にもぐりこむ。

■戦闘員の自室(未明)
  機構専用携帯が非常周波数で鳴る。強化された聴覚はビクッと反応し、煎餅布団から全身黒タイツの男
  が飛び起きる。
戦闘員 「了解!これより非常招集に応じます!」
  全身黒タイツの男は禍々しい戦闘員マスクを装着すると全速力でママチャリにまたがり、指定された戦闘
  予定地区に駆け出す。
戦闘員 「遠くはない…が、始発電車は動いてない。40分はかかるな…」

■川原の土手(未明)
  全力でママチャリをこぐ戦闘員。
戦闘員「くそっ!くそっ!くそおっ!!」
  叫びながら疾走する戦闘員。
戦闘員(モノローグ) 『これから死ぬかもしれないってのに、なんでオレは必死でママチャリこいでんだ!?』

ナレーション 「世界征服機構の構成員は脳内に服従回路を組み込まれている。列戦戦闘員にはさらに習慣
 性のある薬剤で条件付けがなされているのである」

■石切り場(早朝)
  正義のヒーロー(変身前)が燦然と立ち尽くしている。右手には剥き身の太刀、左手にはサブマシンガン
  を握っている。辺り一面に先着した戦闘員の死体(タイツのみ)が転がっている。
ヒーロー(変身前)「チッ、なめられたもんだぜ。怪人のヤツはまだ現れないのか…」
  そのとき、ママチャリで戦闘員が到着する。丸腰の戦闘員は先着していた戦闘員輸送バンで予備の武装
  を手に取った。手にはヒーロー(変身前)のものよりやや細身の日本刀、左脇のホルスターにリボルバー
  ハンドガンS&W357を装備する。そして戦闘用特殊配合薬剤を首にプシュッと注入し、ヒーロー(変身前)
  の目前に吶喊してゆく。
戦闘員 「バブッ!!(字幕 : さあ来い!!)」
ヒーロー(変身前) 「また一般戦闘員か。昨日逃げ去った幹部怪人ヘレゲオンはどうしたッ」
戦闘員 「バブブー!!(字幕 : オレの知ったことか!!)」
ヒーロー(変身前) 「まあいい、このオレにカタナで挑んでくるとはいい根性だ。一刀で片づける」
戦闘員 「バブーブ!!(字幕 : 下っ端だからってなめるなよ!!)」
  互いに突進しガキンと火花を散らし切り結ぶヒーロー(変身前)と戦闘員。押し合いのパワーではまったく
  勝負にならないことを悟って飛び退る戦闘員。ヒーロー(変身前)の一閃が青い残像を残して戦闘員に襲
  いかかる。ヒーロー(変身前)の放つ剣圧で細身の刀をバキンと折られる戦闘員。その瞬間、恐怖に打ち
  勝った戦闘員は冷静な判断力ですばやくホルスターからハンドガンを抜くとヒーロー(変身前)の眉間に
  向けポイントする間も惜しんでトリガをひく。チンッ!凍りつく時間。だがハンマーに打たれたケースは不発
  だった。次の刹那ヒーローの左手のサブマシンガンが戦闘員の胸に無数の血飛沫を散らす。
ヒーロー(変身前)「不発だったとはいえオレに一撃与えようとは…この戦闘員、いったい何者だ!?」
戦闘員「バ、バブー!!(字幕 : し、死にたくないようー!!)」
  戦闘員が息絶える。シュワっと紫煙が立ち昇り、全身黒タイツだけが残った。

(終)


□ ノースペシメン
|
・―□ アニメ創作系
    |
    ・―□ 働く戦闘員