[アバン]
あかりの小学生の頃の想い出。
浩之は、雨の中落としてしまった教科書を拾って自分のものと交換してくれました。
やがて夢から目覚めたあかりは新しい朝を迎えます。
おそらく小学校の初登校の途上、転んで真新しい教科書を落としてしまったことは、当時のあかり本人にとって絶望的な悲しみであったと言えます。浩之が手をさしのべて助けてくれた嬉しさ、ありがたさは、今も夢にまで見てしまうほどに強烈な印象だったのでしょう。
傍から見ている人間にとっては、その泣きじゃくる姿を奇異に思い、歩き去っていくだけのことです。「しょうがねえなあ」と言いつつ黙々と拾ってやっている浩之本人にしても、それはたいした問題ではない、自分が多少濡れて汚れた教科書やノートを使うことになるといってもぐずぐず泣いているあかりほどではない、遅刻するよりずっとマシ、という程度の気分です。浩之はこの出来事をあかりほど想い出として憶えてはいないでしょうし、あかりとの会話で思い出したとしても、昔からドジだったなあ、あれぐらいでひんひん泣いてたなあ、という程度の感慨でしょう。もちろん浩之にとっては泣いているあかりを放っておくことなど思いもよらないことですけれども。その本人の行為の意味、他人にとっての魅力といったものは本人には記述不可能であるものです。本人にとってはごく当たり前のことですから。
一方的な想い出の美化だとか刷り込みだとか言ってしまうとつまんない気もするんですが、我々の日常でも頻繁に起こっていることだとも思います。僕達が誰かの言動によってとても救われた思いをしたとしても、その相手は気にもとめていないかもしれません。逆に僕達の何気ない言動によって、ひょっとしたら誰かの心を大きく揺らがせていることがあるかもしれません。
アニメのToHeartは浩之にとっては「何か起きる(起きた)かもしれなかったけど何も起きなかったように見える日常」で、何が起きたかを見えなくしているゲームでの「ユーザーキャラ=浩之」視点の主観記述を客観的な描写を含むあかり視点に移し、「藤田浩之」という確固たるひとりの登場人物の魅力を描こうとしていると思えます(もちろん逆にゲームでは浩之にとってのあかりの魅力、あかりがいてくれることのありがたさが存分に描かれていますけれど)。
あかりの部屋にはくまのぬいぐるみがたくさん置いてあります。ゲームのシナリオでは、あかりのくま好きは浩之が呆れるほど執拗に描かれ、イベントでは浩之との交流を描く重要な小道具にもなっています。あかりのくま好きの由来はゲーム同様にアニメでも明かされるのでしょう。オープニング映像 でもチラっと映ってますし。
あかりの髪型は後期型です。ゲームではあかりシナリオに本格的に突入していなくてもある程度あかりに会っていれば髪型変更イベントが起きるのでそんなものかもしれません。浩之とあかりはそれなりにつきあいが続いていたということでしょう。
[オープニング]
オープニング映像について 及び
オープニング曲について 参照。
[CM]
[Aパート]
サブタイトルテロップ:新しい朝
ゲーム人としてはこのサブタイトルから Win版ToHeart ED曲「あたらしい予感」を連想して感慨に浸ってしまうところです。この世界の浩之達はどんな夏休みを送ったのかな。
あかりは、近所の浩之を迎えに行って一緒に登校します。途中で雅史に会いました。
家の玄関のドアを開け、奥にいるらしいお母さんに向かって元気に「いってきまぁす」。あかりママはいつ出てくるんでしょ。プレステ版ではあかりと同じ川澄綾子の声のようでした。
半袖の制服です。以前見たアニメの設定画稿は長袖だったのですが、季節が冬に変わるにつれて衣更えですね。
あかりの家の設定はプレステ版と同じようです。なんだか外国っぽい家の外観です。煙突あるし。冒頭の英字タイトルの教科書やノートといい、国際的な街のイメージなんでしょうか(?)
長い坂を駆け降りると藤田家宅です。
浩之ちゃんの顔と声、初登場です。志保の情報によるとクラスの女の子達にはちょっと怖そうな感じということでしたのでイメージにぴったりです。だるそうな声も合ってるし。知人によると雅史が「雫」の長瀬ちゃんタイプだから浩之は同じく「雫」の月島(兄)でリーフのキャラデザ的には基本を外していないな、ということです。表情をかったるそうにすれば似てるかも。
浩之は高校生にもなってちゃんづけで叫ばれたことにぶつぶつ言っていますが、「ったく、しょうがねえなぁ」という口癖は小学生のあの頃と変わりません。あかりは笑顔でみつめています。
夢で思い出した場所をあかりは目で追います。浩之は気づきません。あかりが転んで教科書を落とした階段は小学校への通学路でしょうか。でもあの時は階段の上から通りに降りて来たように見えるので、浩之達の家からそういう経路も取れるのでしょう。長い坂道を降りてきたようですから実は階段を通った方が近道だったのかもしれません。そこを今は使っていないということは・・・浩之があの日以来もう階段通るのはやめようとか言って今もずっとそのままなのかもしれませんね。浩之はそのことをもう憶えていないでしょうけれども。
「今朝ね・・・」とあかりは言いかけて浩之の「たりぃなぁ」で遮られます。あかりは浩之の暑さへの不平ににっこり笑ってそうだねと頷きます。「・・・今朝、どうしたんだよ」と話の続きをうながす浩之。さすが、ちゃんと聞いてたんですね。でもあかりは「別に」と打ち切ります。「あっそ」と浩之。それはあの階段が見える場所でなければ言ってもしかたのない話題、あかりは浩之にその場所を見てああそうだっけなと思い出して欲しかったのでしょうけれども。残念ながらそこはもう通り過ぎてしまいました。すごくリアルで自然な芝居だと思います。ふと思いついてそのことを伝えようとしたけれどタイミングを逸してしまった、でも敢えて言うほどのことじゃない、その場では呑み込んでしまった言葉、発することのなかった想い、僕達の日常でもおそろしく身に覚えのある体験です。こんな風にしていったいいくつあかりの想いの言葉は宙に浮いたまま消えていったのでしょうか。ゲームならば春にもあったかもしれない二人の進展という「可能性」と、それが実現はしなかった「現実」を感じさせます。決して今が幸せじゃないわけではありませんけれども。
雅史登場。雅史は「あかりちゃん」あかりは「雅史ちゃん」と呼び合います。浩之はおそらく最初から「あかり」「雅史」と呼んでいたと思うので、雅史は相手の呼び方に合わせる性分なのかもしれません。
雅史の方が坂の上の方にいるのに頭の高さは同じくらい、浩之はかなり大柄であるようです。姿勢の悪さはけだるい雰囲気とともに色々と窮屈な思いをしているような感じです(座席が狭かったり狭いドアで頭ぶつけたりするのかな)。雅史は可愛いなあ・・・てっきり最後の攻略可能キャラだと思っていたのになぁ。雅史の存在意義は仲良し四人組で男女比 2:2 を構成する要素、唯一の男友達、浩之とあかりの関係を本人達よりも正しく把握しみつめる客観視点といったところでしょうか(ゲームでは雅史の想い人は明かされませんけれど)。
浩之とあかりのいつものやりとり、雅史は「二人とも、新学期早々調子いいね」と嬉しそうです。新学期、ということは今日は二学期の始業式ですね。
学校。二学期の始業式。あかりのモノローグ。
最初だから説明セリフは仕方ないのかもしれませんけど。説明しなくてもわかることだよなー、という気もしないではありませんが・・・。
「わたしと浩之ちゃんは、これからもずっと一緒に、時を刻んでいくと思っている、そう信じている」 あかりの決意表明です。
ToHeartってゲームは一見、ユーザーが藤田浩之と一心同体になってお目当ての女の子を「攻略」していくゲームにも思えますが、決してそうではないという気もします。浩之は初めから特定の女の子目当てでアタックしていくというものでもありませんし、女の子の好感度パラメータを上げていくというより(もちろん会う度に彼女の方の親密度も上がっているのですが)、浩之というひとりの男の子の自由意志に時々介入することにより、その彼の気持ちをある特定の女の子に導いていくゲームだという気がします(こういう感想はゲームをプレイしたことのある方なら頷けると思います)。オープニング曲について でもちょっと触れましたが、しばらくプレイしていると救いを求めている女の子の電波/想いによってユーザーである僕が操られ、そしてユーザーである僕はコマンド選択によって浩之の自由意志に天啓のように介入し、そして女の子は自分を救ってくれる男の子をゲットする・・・まるで女の子キャラとユーザーとの共同謀議のように、望んでいたもの(=浩之の心)を手に入れるのです。もちろんToHeartはユーザー主観の恋愛シミュレーションの体裁を採っていますから巧妙に「自分と女の子キャラ」の恋愛を疑似体験できるようにも作られています。しかしこの物語を客観視点でみつめるならば「女の子攻略」でもあるがどちらかというと「浩之攻略」でもあるという側面をはっきりと浮き彫りにするのではないかと考えます。敢えてアニメでは浩之の心の内面は決して直接的に覗けるようにはなっていません。誤解されやすい浩之のことですから観客には何を考えているのかわからない状態になることもあるでしょう。しかし、だからこそ浩之に対して想いを抱く様子や、浩之には届かない想いまで見えてくると思います。
ところでなんで浩之は列の先頭に立ってるのかな。名前順でも背の高さの順でもなさそうですし。それにしても浩之はほんとに退屈なのか、ツラそうです。
始業式が終わって教室に戻る浩之達。廊下でレミィに出会います。
雅史がみんなでカラオケに行こうと提案しました。
あかりも賛同しますが、浩之は乗り気でないようで、あかりは残念です。
「ったくあの校長話が長えよ」 あかりの長いモノローグに対する嫌味でしょうか(え、オレもダラダラ文章が長いって?)。あかりのたしなめ方は自分の晴れ舞台のモノローグの脚本にケチをつけられたからなのか(んなわけないって)。
レミィ登場。キャストについて のレミィの項でも触れましたが、どうもアニメのレミィは英語混じりのあやしげな日本語で慣用句やことわざを誤用するようです。典型的なアニメガイジンキャラで、わかりやすくていいんですけどね。今回は「暑さ寒さも対岸まで」でした。しかしレミィ、すげー派手な靴下だな。ゲームだと普段は上半身しか見えないからあまり気にならなかったけど。それに結構背が高い(データ見るとオレと同じ・・・デカイ女の子だ)。
浩之のレミィ評は「・・・陽気な奴」でした。ゲームでの印象はある意味非日常的なほど元気一杯なのですがアニメではややおっとりしていて能天気っぽい印象です。可愛いですけどね。あ、レミィがどこの国の人なのかとか、どういう知り合いなのかとか、まったく説明してませんね。いい感じです。
2-Bの教室。席替えです。委員長の保科に任せて先生は出て行きました。
あかりのモノローグ、浩之の隣の席になりたいと思っています。
委員長はクラスの意見が出ないのでくじ引きに決定します。
どの席がいいか雅史と話している浩之の側に、志保が潜り込んでいました。
不満なクラスの女子から詰め寄られる中、委員長は黙々とくじ引きの紙を切っています。
あかりは明確な意志で浩之の隣の席を狙っています。いいですね、ゲームではあかりの心の声は見えませんから。
委員長の強行、まあ勝手な要望と不平しか出ないのではくじ引きの可否を多数決とっても代案が無いので意味がないのは確かです。ゲームでの保科智子の性格からすると「アホは相手にせえへん」ということでしょうが、それでは余計な反発を招いてしまいます。無責任に波風立てるのが好きなオレなら「くじ引きor出席番号順に整列、どっち?と二択を迫って一票でも多い方で無理矢理可決する」とか「くじ引きの可否をとるが否決して代案が無ければ席替えヤメと事前に宣告、否決したら即解散!」とか狡いことを考えてしまうのですが、委員長は責任感が強く、自分でベストと思う方法を強行します。エライ、のかなぁ・・・たとえ相手にもわかっているだろうとはいえ、事情を説明しないというのはバカにした態度と思われても仕方ないのかも。
うーん、でもこのシーンのレイアウトと切返し、すごくカッコいいです。lainは斬新だと思われてるかもしれませんけど、こんな感じでごくオーソドックスだったと思いますよ。
クラスはもめていますが、浩之は「なんでもいいから早く帰らせてくれ。暑い上に腹が減ったぜ」とぐったりしています。
どの席がいいか雅史に聞かれた浩之は「別にどこでも」と言いかけて、視線を感じたのかちらっとあかりを見ます。あかりはずっと浩之を見ていたのですが、はっと気づいて俯いてしまいます。あかりに視線を逸らされた浩之は再びぐったりして「一番後ろの廊下側かなぁ」とつぶやきます。廊下側の後ろの方の席、というのはあかりに目を向けていた浩之の視界にある席です。ひょっとするとあかりに目を逸らされたので、浩之は(どの席でもよかったけれども)とっさにそちらの方向にある席を口にして、あかりの方を見ていた言い訳にした、と考えられなくはありません。もしあかりがそのまま視線を逸らさなかったら、浩之は何と答えていたでしょうか。浩之の心中は観客には明かされていないのでわかりませんが、あかりとしては自分が視線を逸らしたことで浩之になんと思われたかは気になるでしょう。もしかしたら浩之も自分の隣がいいと思ってくれているかもしれない、だとしたら視線を逸らしたのは気に障ったかもしれない。でもあかりは、自分の想いは、まだ浩之の隣になれると決まったわけではないから、それが実現したときに打ち明けたい・・・もし隣になれなければ、登校中に想い出の夢の話を切り出すタイミングを逸してしまったのと同じ「届かなかった想い」になってしまうけれども・・・。
雅史が浩之の希望の席の競争率の話をすると(ほんとに雅史って自分のことより浩之のことにしか興味がないみたい)、突如として浩之のすぐ側に隣のクラスの志保が登場。延々「一番後ろの廊下側」談義が始まります。志保は浩之の対応にとことんからみ、遂には無理に椅子に座らせろと押し合いを始めます。そこまでしてかまって欲しい、やはり四人の中で自分ひとりクラスが違うというのは寂しい、という志保の実情がひしひしと伝わってきます。口とは裏腹なのが志保であることが表現されていると思います。それを見て「志保もしょうがないなあ」と目尻の下がるあかり。これも友情と信頼がなせる余裕でしょうか。あかりにとっての志保はそうでしょう。でも志保本人にとってはどうかな?結構無自覚というか虚飾や欺瞞にどっぷり浸かってる女の子ですからね。自分の欺瞞に気づいてしまったとき、志保は自分でもどうするか(どうしたらいいか)わからないと思います。
委員長に詰め寄るクラスの女子(岡田・松本・吉井)。ほとんど言いがかりですが、いちいち反論はしない委員長。ゲームでの強気で高飛車な委員長と違って随分とお疲れな感じです。
「保科さん、大変だなぁ・・・」とあかりは思いますが、とくに何もしません。委員長の方に協力を拒絶する態度があるからでしょう。というところで、そのままCMに突入。
アイキャッチA:音楽 No.07「あなたの横顔」 あかりのテーマ
[CM]
[Bパート]
アイキャッチB:音楽 No.14「Smiling」 レミィのテーマ(なぜここでレミィ?)
委員長は黙々とくじ引きの紙を切り続けています。
志保が四人でカラオケに行く話をしますが、浩之は承知していませんでした。
あかりが手を合わせて謝っているのを見て、浩之は納得します。
CMが明けてもまだ同じように委員長は紙を切っています。まるで視聴者がぼけーっとCMを見ていた間も委員長はずっとそうしていたかのようで、そこには実際のフィルム時間よりもっと長い時間を感じます。(AパートとBパートの)巧い切り方ですね。これで視聴者はクラスの人間と同じ何もせず見ているだけの傍観者という気分に追い込まれます。
いつまでたっても終わりそうにないので苛立った志保がカラオケの半額サービスの話をします。昼までに行かないとせっかくの四人分の半額サービス券が使えない、ここでタイムリミットが切られます。エクスキューズが成立するわけです。
浩之自身はカラオケに行くとは承知していなかったのですが ・・・そういえば教室に戻るときに雅史がカラオケを提案しあかりは賛同したものの浩之は断っています。志保は始業式が始まる前にあかりからカラオケに行く話を聞かされていたそうです。ということは、あかりは始業式が終わった後、雅史とこっそり示し合わせて、その場でさも思いついて二人が意気投合したかのようにカラオケに行こうと浩之を誘ったということでしょうか。浩之があの場で行くと答えていたならばどちらから言い出していてもよさそうなものだったのですが ・・・仮にあのときあかりから提案して後で雅史が賛同したのなら雅史は善意の第三者の余地があり、実際には雅史から言い出していたので雅史とあかりはグルだったと割れますね(何も知らなかった雅史が偶然タイミングよくカラオケを提案したという可能性もありますが、それはないでしょう)。あのときはその場の思いつきだろうと踏んだかで浩之は軽く断ったのでしょうが、それを見たあかりのがっかりした顔の裏にはこんな事情があったのですね。目論見がバレたと観念した言い出しっぺのあかりは浩之に手を合わせて謝っています。最初からそう言えばよかったのにね。あかりの想いはあまり表立って伝えられないようです。逆になんらかの想いが伝わってきたときにはその背後に数倍する強い想いが秘められているということでしょう。結果的に浩之は志保のカラオケ欲求に押し切られる形にはなりますが、当初は隠そうとしていたあかりの想いが図らずも伝わったという理由もあるかもしれませんね(浩之の心中は見えないのであかり側からの希望的観測の域を出ませんけれども)。
それにしても、雅史って子は誰の言うことでも従順に聞くんですね。その割にしれっとしてるところもあるんですけど。
詰め寄った女子から激しく責め立てられる委員長。
その様子をじっとみつめている浩之。クラス中から不平の声が上がっています。
浩之は立ち上がり、委員長と手分けしてくじ引きの紙を準備しました。
さて、いよいよ今週の山場です。
吉井は「委員長らしくみんなの意見をまとめなさいよ」と難癖をつけます。確かに先生はみんなで相談して、と言ってたわけだからまあ正しいのかもしれませんが、誰も挙手という手続きを踏んで代案なりの有効な提案をしていないわけだから意見無しとみなされても文句は言えません。委員長にしてみれば論理がわからへんのはアホやから相手にせんでもええ、ということなんでしょう。アホに説明する義理もあるんですけど、もうしんどい、って感じですね。委員長に非があるとしたら、クラスの不平の声の大部分はそのくじ引きの準備のトロさにあるわけで、誰の手助けも求めずひとりで作業を続けている点です。これが仕事ならどれだけ有能な個人であってもひとりで全部抱えて期日に間に合わないでは無能と同じです。高校生ですから皆バカではありません、それぐらいわかっている筈です。委員長対クラスの人間が、互いに互いの非を指摘しないまま対立し、感情的になっている、と言えるでしょう。もはや感情的に対立した相手には正しい論理は通用しません。普通ならクラスの誰かが委員長に向かって手分けして作業させたらいいじゃないかと指摘するくらいはあり得ることですが、既にクラスの協力を拒絶する態度を取っている委員長には通用しないように思えます。それにこちらも待たされて感情的になっていますから文句だけ口にして傍観するという一種の暴力に出るという側面もあります。委員長側にしてみれば無責任に文句だけたれる相手に対する怒りとして意地でも協力を拒んですまし顔で進行を遅延させるという暴力に出ている側面があるでしょう(これがさらに詰め寄った女子の反発を招いているのですが)。
もしこれがゲームだったら浩之の選択肢として「A.委員長を手伝う / B.黙って待つ」とか画面に出てきそうなシチュエイションです。ここでAを選択することはどんなユーザーにも容易なことです。僕でもそうするでしょう。しかし実際に浩之のように行動に移せるでしょうか、何もせず傍観者として無責任に眺めているという楽な選択肢もあるのに?浩之は待たされてイライラしている側ですから立場上仲間を裏切って敵対している相手に手をさしのべるという行為にも(冷静さを失った人間には)受け取れるでしょう。つまり、この選択肢でAを選択するという行為が決してエライってわけじゃなく、この選択肢がきちんと出てくる、どちらでも正しいと思った方を行動に移せるってのが「藤田浩之」なのです。そして、その自明として(必ずしもユーザーが選択肢を指示するまでもなく)浩之は即座にAの選択肢を行動に移しました。
委員長にとって、この浩之の行動はどう映るでしょうか。浩之は非常にスマートな方法で協力します。手伝おうか、とか、手伝う、とは言いません。あかりは浩之が席を立つまさにその直前に「手伝ってあげようかな」と思っていますが、思ってるだけじゃ何にもならないし、あかりのことだから「保科さん、もしよかったら手伝おうか」とか言うんでしょうけどそれじゃ駄目です。恩着せがましい協力を委員長は拒絶するでしょう。浩之は、あと何枚要るのか聞く、有無を言わせず自分が半分やると告げる、そして委員長は彼女なりのメンツを潰すことなく「勝手にしいや」と協力を受け入れることができました。委員長にとっては願ってもいなかった救いの手でした。そして少しは自分の非を認めるべきかもしれないという風に心が動いたことでしょう。それはきっと論理的に指摘したからといって感情的に伝わったり納得されたりするもんじゃない、実際に手をさしのべられ、助けられたという体験をもって以外に得ることのない感動ではないでしょうか。委員長は一方的に浩之からその感動を与えられたのです。まあ大きく浩之に傾くということではないかもしれないけど今回最も強いインパクトを受けた人でしょう。
クラスの他の人間にとってはどうでしょうか。正しい行動(この場合は自分の利益を優先すると同義で構いません)がわかっていたのにそれを実行できなかった自分を痛感するでしょう。わかっていなかった人間も浩之の行動の結果得られる自分達の利益(時間の短縮と緊張の緩和)を考えれば答えは自ずと明らかでしょう。自分達が如何に感情的になっていたか、そしてその高まった緊張がこんな簡単な行動ひとつで(といっても頑なな委員長や詰め寄る女子の非論理性はちょっとコワイですけど)すーっと波が退くように弛緩していくことか、まさに今浩之が黙々と作業しているのを眺めながら体験している筈です。もし僕が彼らの一員なら「ええもん見せてもろたわ」くらいは密かに思いますよね。口に出して賞賛するのには自分が恥ずかしいけれども。
あかりにとっては、やはり浩之にますます惚れるってことですね。浩之の行動パターンはよく知ってるから、いつもの浩之ちゃんらしいという感じで、委員長に嫉妬するっていうには程遠いようですし。
志保は ・・・ 「ふぅうん」「別に」というのはどんな感慨があったのでしょうか。もちろん(部外者ですが)クラスの人間とも同様のものがあったでしょうし、あかりと同様、志保なりの浩之らしさを再確認したという嬉しい気持ちがあったでしょう。ひょっとしたら委員長に対する嫉妬、というと大げさだけど、あかり以外の女の子に優しくする浩之に対しては複雑な心境もあるかもしれません。自覚はしてないと思いますけど。
浩之は「早く終わりにしないと、半額サービス受けられないんだろ」と担保しておいたエクスキューズを吐きます。おそらくそれが大きな理由でしょう。そう解釈すると委員長にとっての感動の一方向性が出てきますからね。浩之にとっては利己的な動機でも善意や好意でも同情でもムカついた相手(委員長又はクラスメイト)の非を咎める目的であっても、委員長側の受けた印象は変わらない。浩之のほんとの気持ちはわかりません。そのへんの動機の割合を包み隠しているのがいいですね。カラオケに行くのがあかりの意志であることが図らずも暴露された後のことですし、あかりの想いに応える為、という理由も成立しますから。
浩之のエクスキューズを聞いた志保は「はぁん、やっぱりこの志保ちゃんの素晴らしい歌が聴きたくなったようねぇん」と返します。複雑です。本当に浩之がそこまで思っていると考えて・・・はいないよな、でも少しは志保とカラオケに行くのを楽しみにしているだろうという期待も心の隅にあるんでしょうね。その期待が浩之に対する好意であることを全面的に認める気もない。大げさに言ってみせるのは浩之が言い返すのも期待していて「まあまあ、そう自分の気持ちを偽らなくてもぉ」。自分の気持ちを偽っているのは志保、お前だ! ・・・と少なからずオレは思う ・・・ が、そうすると志保の術中にハマるわけでもあります。自分の気持ちを偽っている人の言動というのは複雑です。全然気持ちと反対のことを言ってるわけじゃないでしょうから。大げさに言って言い返してもらいたい、そうして浩之にかまってもらいたいという意図(願望)もあるわけですし。欲しいものをすべて手に入れる為には実は正直でいられない、だからどんな人間も自分を偽っている。偽りのない自分などというのは仮定の存在、論理的な存在でしかなく、偽りを含めてこそ自分の正体なのですが、ほんとの気持ち、という甘美な言葉の概念に観客はこだわってしまいますね。
志保と浩之のやりとりを見てくすりと笑うあかり。余裕です。なにがしかの浩之に対する好意とその抑圧を承知して前提に立っているのでしょうか。志保が気を使わなくても浩之と自分の関係についての信念が強いのでしょうけれど。
席替えのくじ引きが始まりました。
あかりは待望の浩之の隣の席を手に入れます。
このクラスは横7列前後6列で42人ですね。委員長も黒板にキッチリ枠をひいて教壇で前後を示し、ちゃんと番号をランダムに散らしてるのが律義ですねー。厳重な監視下でくじを引かせ、引いた番号には丸をつける、やっぱり不正がどうとか難癖つけられたのを気にしてのことでしょうか ・・・だったら事後のくじの交換を防止する為に決まった枠にはその場で名前を記入していくのがベストですが、そこまではやりません。雅史ちゃんが浩之の隣を引き当てたらあかりのと交換してくれそうな気はするんですけどね。
吉井は「一番後ろの廊下側」が当って上機嫌です。岡田と松本は口惜しそうというか呆れ顔というか。結果さえよければ変にこだわらず素直に喜んでくれる女の子でよかったですね。ともかく今日のところはさほど遺恨も残らず丸く収まったことを端的に表現したカットです。やはり彼女達はくじ引きに反対していたわけじゃなくて委員長の態度に反感があったようです。逆に根が深く、何の解決もないとも考えられますが。
浩之の席は今までの席の隣でした。ここでも雅史は「残り物に福があればいいね」とか「あんまり変わらないね」とか浩之のことばかり考えているようです。仲がいいというよりなんかもう犬と飼い主みたいですね。雅史の席がどこになったのかは不明です。
あかりは浩之の隣になるには18番を引けばいいことを確認し、「よし!」と意気込みます。仮に浩之が一番最初に引いて次にあかりが引いて隣になる確率は(7列中5列は両隣なので)4%くらいだと思いますが、このときまでに浩之の片方の隣はふさがっててくじの残りが11枚だから単純に約 9%ですね。確率は倍以上、割とチャンスです。委員長に「あとがつかえてる、はよ引きいや」と急かされて意を決するあかり。悩んだら 9%がゼロになります。真剣な面持ちでくじを開いたあかりのタレ目がますますタレます。18番、当たりでした。
浩之に「なんだか嬉しそうじゃん」と言われて(やっぱりよく見てますね)、隣の席になるのが夢だった、と遂に想いを告げるあかり。今朝の想いは届かなかったけれども、この想いももしかしたらまた届かずに終わっていたかもしれないけれども、まあ、たまには届くこともありますよね。あかりはきっと席替えの度にいつも届かない想いを秘めていたのでしょう。浩之は今まであかりと隣同士になったことがない事実を気にもとめていなかったような口ぶりですが、それまでのあかりの累積した想いが一気に伝えられてきたかのような気分かもしれません。
(コカコーラの「心が躍り出す♪」ってTVCMがありますよね。「また同じクラスになった」とか「好きだって言えた」とか、一言で言えばそれまでのことで、他の人には特別なんてことないように思えるかもしれないけれども、日常の中のふとしたことでその人にとっては心が躍る瞬間がある、ただそれだけのネタフリもヒネリもオチも何もない1コマですが、妙に共感を呼ぶドラマです。あかりの「あの人の隣の席になった」っていうのもそれに近いかなあとふと思います。)
自分の教室に戻って荷物を取ってきたらしい志保がカラオケに急かしにやってきます。
雅史は声だけです。
四人でカラオケ。
志保が歌っています。おそらくほとんど彼女が歌っているのでしょう。浩之は居眠りしていました。怒った志保に大声で耳元で歌われて浩之は思わず耳をふさいでいます。キャストについて でも触れましたが、樋口智恵子の歌が巧いのかどうか、僕にはわかりません。マクロス7の歌バサラ&歌ミレーヌやバブルガムクライシスの歌プリスのように歌志保(歌うとき専用の声質の似た歌手)が必要だと言うわけではありませんが ・・・プレステ版では志保は浩之が感心するほどすごく歌がうまいということになっていたのですが、アニメではどうなのかな。レミィの大幅な変更を見ると志保もこの点では変更されているのかも。
志保が歌っている曲は 今井由香の「一億一の奇跡」です。TVアニメ「愛天使伝説ウェディングピーチ」のスカーレット小原/エンジェルサルビア役にあわせて低く抑えた声で歌われていたのですが、それ故に樋口智恵子にはツライ選曲だったのではと思ってしまいます。To Heartで今井由香は坂下好恵役ですね。ボーカル&ドラマCD「ウェディングピーチ ドリームコレクション」(KSS/JSCA29034)に収録されています。後期オープニングの「Wedding Wars 〜愛は炎〜」も収録されています。CDドラマは運動会モノでなぜか早口言葉で声優さんの技術が試されています。ウエディングピーチは当初キングレコードから音楽ソフトが発売されていたのですが(前期主題歌CDSとサントラ2枚とボーカル集1枚)、後期主題歌CDS以降すべてのソフトがKSSに移行しています(まるで大手のスタチャイが商売にならず捨てたのを弱小メーカーが拾ったような印象もありますが)。KSSにとってはソフト発売はもちろん音楽制作からアニメーション制作まで何もかも手がけた作品なので思い入れが強いのかもしれません。ただ単にKSSが自由に使える音源というだけかもしれませんが。エヴァと同じ曜日の直前にやってた番組なので知名度だけはやたらあると思います。ウェディングピーチについては余談が続くと終わらないのでこのへんにします。
夜。あかりは自室で志保と電話しています。
志保は電話で浩之についてワケのわからない言いがかりをつけ、あかりに同意を求めます。あかりも志保の言い分に一理あるねと言って同意しました。そして志保は一方的に電話を切り、あかりは疲れたように軽くため息をつきます。あかりは完全に聞き役のようです。
志保はなにかにつけて浩之につっかかりますね。「あいつはあたしやあかりや雅史がかまってあげてるから寂しい思いをしないですんでるのに、生意気なのよー!」という認識はいかにも口と行動が裏腹で興味深いところです。その後の話で浩之にその点を指摘されるのですが全く意に介していません。ゲームの志保シナリオの先入観から見ると、心の底では「あかりだから浩之を諦めている」というような解釈も可能なのかもしれませんが、仮に浩之に好意を抱いていたとしてもこの時点では完全に無自覚で、無自覚故にあかりにも何ら察知されていないように思われますね。
電話をしながらあかりが触っているくまのぬいぐるみはオープニング映像 に出てくるものに似ています。というか、同じものでしょう。
あかりは自室で日記をつけます。昔の写真を見ながらモノローグ。
あかりの日記
―――――――――――――――
9月3日。
初めて 浩之ちゃんの
となりの席になれた。
――― ずっと夢だったから
とても うれしい ・・・。
―――――――――――――――
日記で締めくくることで、これまでも毎日こんな調子で過ごしてきたんだろうなぁと感じます。
浩之に対しては、ひとつは昔の想い出の話がタイミングを逸して届かず、ひとつは黙っていたことが予期せず届いたかもしれず、ひとつはずっと夢だった想いが叶っておそらくは浩之にも届いた、といったところでしょうか。届こうが届くまいが密かに浩之を想っていれば幸せというのが現在のあかりですが、今日はかなり成績のいい日だったようです。
パジャマに着替えるときに裏返しておいたのでしょうか、写真立てを表に向けます。そこには幼い頃の浩之とあかりが写っています。
あかりの日記(追記)
―――――――――――――――
これからも ずっと
一緒にいられますように。
―――――――――――――――
夜の星空。一日が終わって、おしまいです。
[エンディング]
本編の静止画で構成されています。
□ 登校中の浩之とあかり
□ 家の窓から寝起きの浩之
□ カラオケで熱唱する志保
□ 始業式のあかりと雅史
□ 廊下の向こうに去り際振り返って指を立てるレミィ
□ 俯いて黙っている智子
□ 想い出 あかりと、教科書を拾っている浩之
□ あかりの家
□ 手前の浩之を睨みつける志保
□ 想い出 泣いているあかりと、浩之
□ 朝、家から出るあかり
□ あかりの部屋のくまのぬいぐるみ
□ 家の中の浩之を呼ぶあかり
□ 高台の学校 遠景
□ 駐輪場の自転車
□ あかり
□ あかりの家から浩之の家に続く坂道
エンディング曲は放送局によって2種あるようです。
サンテレビでは「Access」by SPY (川澄綾子の実家の新潟地方では川澄綾子版らしいです)
キッズステーションでも 1話は同じでしたが、2話以降は「Yell」by川澄綾子 みたいです。
[CM]
[次回予告]
放課後の出来事
志保の話みたいです・・・ってもうとっくに見てるんですけどね。